おいしいエッセイ

最終更新: 10月4日




子供のころから本ばかり読んでいた。


社会人になる前は、「本を読む」のは「小説を読む」のと同義で、気に入った小説家の本は、図書館で片っ端から借りて全て読んでしまう少女だった。夏目漱石の全作品を読破したときには、高校の先生にちょっと呆れられたものだ。


味わい深い小説の世界に浸るあい間に手を伸ばす、小説家たちのエッセイは、私にとって箸休めや3時のおやつのような読み物。特に、食に関するエッセイに心を惹かれていた。


小説家の山田詠美は、美味しいものを日常の中で楽しんで食べることで、自分自身をとびきり甘やかしているような日々を綴ってる。詠美さんは料理も得意。味を決める「塩」にはまって、旅行のたびにあちこちの国の塩を揃えているという話にも、なんだか不思議とワクワクした。納豆好きな詠美さんが、納豆パックを洗わずに台所のゴミ箱にほうりこんでは、当時の旦那さんに文句を言われた逸話も、等身大の国際結婚の日常が垣間見れたものだ。


食のエッセイの中でも、とくに秀逸なのが、石井好子さんの『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』


1950年代にパリに留学して活躍していた、シャンソン歌手の石井好子さん。


シャンソンのプロとして日々切磋琢磨する厳しい異国暮らしだったのだろうと想像するのだが、この本に書かれている食のエピソードは、読んでいるとほっと身体がゆるむ暖かさ。


「美味しいなぁ」。


そう呟いてしまう出来事のある風景のなかには、たくさんの素敵なものが入り込む余白が、たっぷりとあるよう。


洒落た表紙のイラストは『暮らしの手帖』の初代編集者花森安治さんが手がけたもの。


バターが焦げるオムレツの匂いを、胸いっぱいに吸い込むような本である。

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