2021年7月9日に、電子書籍『世界の現代アートを旅する』を刊行しました。 https://amzn.to/3yN2qqm
世界的な3つの芸術祭、ドクメンタ、ミュンスター・スカルプチャー・プロジェクト、ヴェニス・ヴィエンナーレに、一度行って見たいという方には、雰囲気がわかる軽い読み物としておすすめです。
装画は刺繍アーティストのokada marikoさんにお願いでき、私自身のイメージともぴたりと合った、素敵な表紙になりました。作品の雰囲気をとても好きで、コツコツと活動し続ける様子に尊敬の念を覚えていたアーティストに、表紙を飾ることを快諾していただけたことが、とても嬉しかったものです。
さて、この旅日記。なぜ、ただ楽しめばよいプライベートの旅行中に、仕事のように毎日書き続けていたかというと、旅の出発前にふと、「私も『深夜特急』をやりたい!」と思ったからでした。
『深夜特急』は、1980年代に刊行されて、「バックパッカーのバイブル」と呼ばれ、今も読み継がれている、旅エッセイの王道文学です。独り言のような独白が続く箇所も多くて、とても内向きな文章ではありますが、旅で新しいものに触れたときの内面の変化が、読んでいる私にとっても新鮮だったことを思い出します。
沢木耕太郎『深夜特急』
なぜ私がアートを求めて旅をするのかというと、自分の内面に響くものと出会いたいのだという根源的な欲求があるからです。 かといって、日常生活で心を揺さぶられることがないかというと、そんなことはなく、むしろ傷ついたり、遣る瀬がない想いを抱えることは数多くあります。ただ、私は私の大切な日常をやりきるために、そうした自分の内面にある葛藤に、蓋をして過ごしてしまってもいるのです。だから、旅にでて、蓋をしてきた気持ちを解放し、アートからやってくる新しい刺激を取り入れたいのです。
そして、アートがもたらしてくれる内的な変容についても、私の関心事の一つであります。ただ、残念なことに他者の内面に、アートにによりどんな変容が訪れているのかについては、表面的にしか知る術がありません。そのため、まずは自分の内面がどう動いているのか、自分自身で観察して日記をつけることにしたのでした。
故に、私の『世界の現代アートを旅する』では、ネガティブな内面の動きもしっかりと書かれていたりもします。単にリフレッシュすればよい旅なのに、人間のダークサイドを深掘りするような観ると気分が悪くなるアート作品まで好き好んで鑑賞している自分に、読み返して少々あきれもします。けれど、ひとつ私自身のが信じていることをここで書いてみるとすれば、アート作品は人の心に響くものであるからこそ、どんなに重たく苦しい作品であっても、鑑賞者の内面を無意味に傷つけたりしないように、周到に設計されているものだということです。どんなアートであっても、日常生活で無意識に誰かを傷つけたり、誰かに傷つけられたりするほどは、ずっと負担が軽い状態で、心に風を入れることが可能だと、私は信じているのでしょう。
安全な場所だから、心を解放できる。
そう考えると、この旅行記はアート体験による浄化の過程を描いたものだとも、読めるかもしれません。
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