無印良品の店舗で行われるらしいので、規模のほどは定かではないが、わくわくする展覧会企画を見つけたので、紹介したい。
本企画のキュレーター深澤直人氏が、この企画について「無印良品のことを現代の民芸、あるいは現代の民具だという人がいます。」と語り始めているのであるが、私はここ数年、確信をもって「そういう人」なのである。
民藝というと、和室に似合う、渋い色で丈夫さのために少々無骨だったりたっぷりとしたフォルムだったりする器などを思い浮かべるのではないだろうか。それが、白くてツルツルとした食器類や、生成りのダンボールやらお洋服やらの無印とどう関連があるのかと、少し頭をひねってしまうかもしれない。
ここで改めて、民藝とは何かについて、振り返ってみよう。
民藝運動は、1926(大正15)年に柳宗悦・河井寛次郎・浜田庄司らによって提唱された生活文化運動です。当時の工芸界は華美な装飾を施した観賞用の作品が主流でした。そんな中、柳たちは、名も無き職人の手から生み出された日常の生活道具を「民藝(民衆的工芸)」と名付け、美術品に負けない美しさがあると唱え、美は生活の中にあると語りました。そして、各地の風土から生まれ、生活に根ざした民藝には、用に則した「健全な美」が宿っていると、新しい「美の見方」や「美の価値観」を提示したのです。工業化が進み、大量生産の製品が少しずつ生活に浸透してきた時代の流れも関係しています。失われて行く日本各地の「手仕事」の文化を案じ、近代化=西洋化といった安易な流れに警鐘を鳴らしました。物質的な豊かさだけでなく、より良い生活とは何かを民藝運動を通して追求したのです。
(引用元:日本民藝協会 https://www.nihon-mingeikyoukai.jp/about/ )
そう、民藝とは当時の工芸界の華美さに対するカウンターカルチャーとして生まれたのである。そして、無印良品は高度経済成長でバルブへと突き進む日本経済のなかで、ブランドロゴを入れさえすればなにであっても高く売れるといったマーケティング戦略に抗い、生活の質の向上という本質を志向した。浮かれたバブル景気が生み出していた文化に対するカウンターであったのである。
そして、「日常生活を尊く、美しく、豊かさの礎」であると捉えているところも、民藝と無印良品は双子のように似通う。民藝は昔ながらの茅葺の屋根の家にぴったりとフィットする道具類に日常の美を託すのに対し、無印良品はいわゆる「n LDK」の、戦後に大量供給された標準設計された間取りの住宅での暮らしに寄り添うような製品を次々に生み出していった。
飴色の肌の民藝の器と、白く清潔感のある無印良品の器という表現の差異は、時代による生活の場の変化に由来しているといえる。
そして、民藝も無印良品もともに、そのネーミングに込められた、名も知られぬ作り手の無垢な素晴らしき仕事という、実に即した理念とは裏腹に、次第にブランドとしての位置を確立していく矛盾もまた、ごく似通っている。
40年とちょっと愛され続け、多くの人の生活に根ざしている無印良品も、いままた転換期を迎えつつある。近年は無印のようにシンプルで安価な日用雑貨を提供する企業は多くあり、90年代までは新鮮味の強かった「シンプルさ」が、今ではデザインのスタンダードになりつつある。そして、コロナ禍で住居空間の居心地が見なされる流れの中で、脚光を浴びたのは無印良品というよりも価格の手軽さで勝るニトリだったようだ。
しかし、無印良品には世界の重大関心事である環境に対する配慮を、設立当初から続けている側面もある。時代に即したデザインや価格ではなく、無印良品が体現する世界観において、愛され続けるブランドであってほしい。「生活が美しくなれば、豊かさが増え、社会がよくなる」。そんな、どこまでもシンプルで地に足のついた無印良品の行先を、展覧会からも感じてみようではないか。
展覧会概要
民藝 生活美のかたち展
会期|2021年1月16日(土) 〜 3月7日(日)
場所|無印良品 直江津 Open MUJI
主催|株式会社良品計画
特別協力|日本民藝館
企画キュレーション|深澤 直人
施工|HIGURE 17-15 cas
グラフィックデザイン|東川 裕子
巡回予定2021年3月19日(金) 〜 5月9日(日) @無印良品 銀座 ATELIER MUJI GINZA
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