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事前予約制にこだわったわけ。小川敦生展「記憶の奇跡を透過する」に寄せて

gallery ayatsumugi 4度目の展覧会を開催します。

場所はJR有楽町駅すぐの有楽町ビル10階にあるYAU STUDIO。


YAU(有楽町アートアーバニズム)は、「アーティストと街の交流からイノベーションを起こす」をキャッチコピーに活動する領域横断型のプロジェクトです。


アートのための場で展覧会をつくると、アートが好きな人が見にきてくれます。ですが今回は会場がYAUなので、普段はアートに馴染みのない方にも、アート体験を届けたい!


といいつつ、今回は事前予約制&週末のみ6日間という、鑑賞のハードルを上げるシステムを導入しての開催です(笑)。展覧会で予約ってしないですよね。私だったら気が向いたタイミングでフラット立ち寄りたいです。正直、このやり方で、来場者数が減るかもしれないなぁと。


実はそれでも、予約制にこだわりたかったのです。ここに、その訳を書かせてください。



《locus》Atsuo Ogawa Photo by Mineo Sakata at Cigasaki City Museum of Art


この「予約制展覧会」については、アートファンのみなさまご存じの、内藤礼さんの手法を踏襲しています。


ひとりずつ、決められた時間で、作品と対峙できる静かな時間。


これが、作品体験の質を圧倒的に変えてしまうことを、アートファンのみなさまは、すでに体験としてご存じの方も多いと思います。


本展はホワイトキューブや美術館空間とは会場のつくりからして異なりますから、いかに作品体験の質を担保するかはひとつの課題でした。


YAUは面白いスペースです。が、飾らずにいえば元オフィスの居抜き空間。小川さんの作品を展示する場所も、もとは小さな、ただの会議室です。小さな会議室に作品が数点展示されているだけでは、アート鑑賞に慣れている人は受け取れたり感じられたりするものが、アートに不慣れな人にまでは届かないと思いました。


そこで、展覧会をあえて予約制にしたのです。


人間の脳とは不思議なもので、「あ、ここは会議室なのだな」と気が付いたら、それ以上なにも観察したり感じたりしなくなります。脳は省エネが好き。省エネが基本なのです。普段からオフィス空間で過ごしている人ほど、この省エネモードが強く働くに違いありません。これでは、アートファン以外の人にも存分に楽しんでもらいたいという、当初の思いが崩れてしまいます。


予約制の訳は、脳の認知機能のクセをハックすること。狙いは省エネされた認知の先に、観客を連れて行くことなのです。


訪れた方には、約10分、小会議室に居続け、鑑賞し続けてもらいます。こうすると、アートの鑑賞空間、例えば美術館などではあたりまえのように工夫されている、省エネせずに五感をひらいてアートと対峙する心身が整うのです。


先日、まだ作品搬入前の会議室で、試しに10分間を過ごしてみました。


10分は長いです。頭の中では、目の前の空間と関係のない思考がぐるぐると巡りました。そして、10分が経った後、わたしは自分の状態がそれ以前とはガラリと変わっていたことに気が付きました。科学的にいうと、脳がアルファ波に傾いたんですね。


「よしいける」


そう思いました。あえての予約制にしたことで、鑑賞してくれた人の中に、深くいつまでも残る体験を届けることができると、確信しています。


展示空間となる小会議室

空間、窓、窓の外の窓、作品、作品と作品との関係、作品と空間の関係、作品と窓の関係。そのあいだに立ち現れてくるもの。


思考というよりも、感覚で。五感を解放したセンサーで、誰もがきっとなにかを受け取れるはず。そして、作品と対峙した時間の記憶は、これから有楽町ビルが解体され、新しい姿に生まれ変わっても、その人の中に留まり続けることでしょう。


さあ、わたしがつらつらと何を書いているか、ここまで読んでもようわからんと思ったそこのあなた。世には体験してみなければわからないことが沢山あるもの。この展覧会もそのひとつ。ぜひご予約をお待ちしております。


gallery ayatsumugiディレクター

友川綾子





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