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筆の熱とクロックムッシュー(東京ステーションギャラリー河鍋暁斎展)

更新日:2021年1月21日


東北地方からの帰り道、東京駅で2月まで開催中の河鍋暁斎展を訪れた。


改札を出てすぐの東京ステーションギャラリー入り口には「要事前予約」と案内があり、ローソンで予約をするためにJPタワービルに向かった。地下にあるローソンでチケットを買い求めた後、予約の時間まで小一時間ほど、そのままJPタワービルで過ごすことにした。


4Fにあるステーショナリーショップの「アンジェ ビュロー」で、手帳などを買い求めた。高感度な雑貨やジュエリーなども眺めていて楽しく、少ないが書籍も扱っていて、選書が好みで欲しくなるが、荷物が多いので手を伸ばさずにおいた。


同じく4Fにはマルノウチリーディングスタイルというブックカフェがあり、本を読みながら軽食をとることができる。眺めもよくて気軽なので、クロックムッシュを頼んで、買ったばかりの手帳を眺めることにした。昼時だが、休日の東京駅近辺は、コロナの影響で閑散としている。


頃合いをみて、東京ステーションギャラリーに戻ると、会場内はそこそこ混んでいた。


江戸後期から明治まで活躍した絵師河鍋暁斎は、コミカルな漫画のような人物描写や酒席で即興で描く瞬発力を持つ人という印象が強い。以前、埼玉県蕨市にある河鍋暁斎記念美術館を訪れ、一気に魅了された絵師である。暁斎の名だけで会場を訪れて驚いたが、本展で展示をしているのは、下絵など暁斎の肉筆画ばかりであり、弟子らの手のはいる本画はなかった。完成品を展示しない展覧会というのは珍しいが、これがまた、ほんとうに目に楽しい、展示品ばかりであった。


細部まで緻密に完璧に仕上げられた完成品、本画とは違い、下絵の数々は試行錯誤のあとが荒々しく刻まれている。「肉筆」という言葉を考えた人はなかなかにセンスがあるなと思うほどに、暁斎の描く線のひとつひとつは、妙になまなましく、弾力を感じられ、3才から蛙を描こうとしていたという逸話が残る暁斎の、描くことへの貪欲さと、呼吸をする様に描くことが暮らしであった日々を想起させてくれる。


絵を観ること、描くことが好きな人であれば、暁斎の場合、本画もよいが、断然この下絵群は面白いだろう。少なくとも私は、鑑賞しながら、これまでにないほど、江戸の絵師の身体を生々しく味わっていた。この企画を実施した学芸員には、とびっきりのラブコールを送りたい。なぜなら、絵を観ることの喜びを知る人でなければ、企画しようのない展覧会だからだ。作品の資料的価値や時代考証などなどを提示することも、学芸員の大切な仕事ではあるのだが、学芸であえば、やっぱり絵を観ることを好きでいてほしい。今回の暁斎展は、本質的な「眼福」を知る人がつくった、絵を観ることに貪欲な人のための展覧会である。これまでに持っていた河鍋暁斎像が、大きく刷新されて、より人間らしい暁斎を知れたように思う。


そして、数々の肉筆画を白木のフレームにマットで額装して展示したスタイルにも好感が持てた。東京ステーションギャラリーは、かつての煉瓦造りの駅舎の面影を残し、レンガの壁が強い特徴なのだが、故に展示空間の作り方にも工夫が必要なことだろう。どうしても洋風な空間になってしまうところを、展示の仕方を工夫することで、展示空間に絶妙な調和が生まれていた。


新年を迎えると、作品がいくつか入れ替えになるようだ。可能であれば再訪したい。


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